『種をまく人』はゴッホがミレーの絵を盗作?ミレーの絵との違いやどこにあるかも解説

『種をまく人』はゴッホがミレーの絵を盗作?ミレーの絵との違いやどこにあるかも解説

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「種をまく人」はミレーとゴッホをつなぐ重要なモチーフです。ミレーは19世紀フランスで農民の姿を真っ向から描き有名となりました。一方でゴッホは「ひまわり」などに代表される独特な作品を書いてきましたが、過去にはミレーの「種まく人」を模写することもありました。本記事では、ミレーがどんな画家だったのかをたどりつつ、『種をまく人』を通して、彼らの作品性の違いや両者の関係やゴッホが模写した作品の魅力などについてを整理して紹介します。

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『種をまく人』制作に至るまで

ミレーはシェルブールで絵を学んだ後、奨学金を得てパリへ出て、美術学校で本格的に修業を重ねました。しかし当時の画壇で主流だった歴史画や宗教画の世界に馴染みきれず、生活面でも苦しい時期が続いたとされます。こうした経験の中で、身近な人々の労働や自然を描く方向へ意識が強まり、1849年にフォンテーヌブローの森に近いバルビゾンへ移住したことが転機になりました。その後、農民を大きく描く表現を深め、1850年のサロンに出品された『種をまく人』へつながっていきます

『種をまく人』とはどんな作品か

ミレーの「種をまく人(Le Semeur)』は1850年頃の作品で、夕暮れの畑を大股で歩きながら種をまく農民を描いた油彩画です。スペイン語版の作品解説によると、肩には袋をかけ、右手で地面に種を投げ、背景には耕された畑と昇る(または沈む)太陽が描かれています。この作品の主役は人物であり、低い地平線の上に大きく切り取られたシルエットが、労働の力強さと孤独感を同時に伝えます。この絵画は単なる風景画ではなく、「種をまく」という行為そのものが、希望と循環の象徴として画面に刻み込まれている点が、この絵の大きな魅力です。

「種をまく人』はどこにあるのか

ミレーの代表的な「種をまく人」は、世界で2枚存在しています。初めて描かれた1枚目は2026年1月現在ボストン美術館(Museum of Fine Arts, Boston)に所蔵されています。この作品解説によれば、1850年に制作されたこの油彩画は、1917年に同館のコレクションに加わりました。画面サイズはおよそ101×82センチと比較的大きく、実際に見ると農民の姿がほぼ等身大に迫ってくる印象を与えるとされています。ミレーは同主題で素描や版画も残しており、「種をまく人」は彼の生涯を通じて重要な絵画のモチーフのひとつでした。

出典元:FASHION PRESS

もう一枚は日本にある!?

世界的に有名な「種をまく人」ですが、実は2作目は山梨県立美術館に所蔵されているんんです。初作ははっきりしたタッチで描かれていますが、実はこの絵の完成度に満足していなかったとか。そのため、2作目では輪郭がぼかされ、光や大地の表現が重点的に描かれています。また種を蒔く手もぼかされて、躍動感を表現したのではないかと言われています。

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出典元:山梨県立美術館

ミレーとゴッホの「種をまく人」の作品性の違いについて

ミレーの種をまく人は、夕暮れの畑を大股で進む農夫を大きく描き、土の色を基調にしながら労働の重みと日常の尊厳を静かに伝える作品です。一方ゴッホは同じ主題を受け継ぎつつ、黄と紫など感情を動かす色を主役に据え、太陽を後光のように見せて人物を象徴的に高めました。ファン・ゴッホ美術館も色彩による情熱表現や、太陽が後光のように見える点を特徴として挙げています。つまりミレーが現実の農民を描いたのに対し、ゴッホは光と色に重きを置いたところが大きな違いです。同じモチーフをより主観的で象徴的なビジョンとして高揚感をもって描き出している点が、両者の決定的な違いと言えます。

ゴッホはミレーをどう見ていたのか

ゴッホは、ミレーを終生もっとも尊敬した画家の一人と公言していました。ゴッホひまわりに至る前に、彼は南仏アルル時代からサン=レミ、オーヴェルに至るまで、ミレーの農民画を何度も模写し、「ミレーの作品を自分の色彩で描き直すことは、別の言語への翻訳だ」と友人への手紙で語っています。ゴッホの作品研究をまとめた美術館の解説でも、彼がミレーの作品をcopyingというより“translation into another language, that of colour(色彩という別の言語への翻訳)”と捉えていたことが紹介されています。ミレーの農民像は、ゴッホにとって「働く人間への讃歌」の原点であり、自作の中心的テーマを形づくるモデルでした。

ゴッホ版『種まく人』は何点ある?

ゴッホはミレーの《種をまく人》に触発されて、素描や油彩を含む一連の「種まく人」シリーズをゴッホは描いています。作品リストをまとめた資料によれば、1881年の素描から1880年代半ばの油彩まで複数点が確認され、特に1888年アルルで描かれた《種まく人》は、ファン・ゴッホ美術館(アムステルダム)のコレクションとして知られています。この1888年版では、大きな太陽と黄金色の畑、紫がかった空が極端に誇張され、ミレーの落ち着いた土色の世界とは全く異なる、強烈な色彩と渦巻くような筆致が特徴になっています。

ゴッホの「種をまく人」は盗作に当たるのか?

彼らの作品のモチーフが似ていることから「ミレーの「種をまく人」をゴッホは盗作したのでは」といった言い方を目にすることもあります。しかしながら、美術史の研究や美術館の解説では、ゴッホの作品はあくまでafter Millet(ミレーに基づく作品)とされ、本人も手紙で明言している通り、「敬意にもとづく翻訳・変奏」と理解されています。このような公開された模写・変奏は当時の画家たちの重要な修業法でもあり、現在の著作権概念でいう「盗作」とは区別されます。

まとめ

ミレーの「種をまく人」は、19世紀に軽んじられていた農民の労働を大画面に描き、その姿に静かな崇高さを与えた作品です。一方、「種まく人」に触発されたゴッホは、その構図を受け継ぎつつも、彼固有の激しい色彩と筆致で再解釈し、「種をまく人」を自らの信仰や希望、不安を託す象徴的存在として描きました。ゴッホ自身が語ったように、それは盗作ではなく「ミレーを別の言語=自分の色彩で翻訳する」試みだったといえます。

この記事を書いた人

サイトにアクセスしていただきありがとうございます!関東在住のオフィスワーカーこころです。ヨーロッパへの旅行が好きで、その中で美術館を訪れる機会が増えたことで絵画に興味を持つようになりました♪これまで興味がわかなかった方も楽しんでアートを身近に感じてもらえるような情報を発信していきます。

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